想定している読者層

  • ビットコインのオプション取引に興味があり、その理論を知りたい人。

やりたいこと

BTCのオプションの理論価格を2通りの方法で計算する。本記事では、プットコールパリティによる計算を行う。

結論

  • プットオプションとコールオプションは、同じ満期と行使価格のどちらか片方の価格と先物価格が分かれば、もう片方の理論価格を計算できる。
  • Moveコントラクトの理論価格を計算するには、BTCのオプション市場の流動性は不十分。

背景

FTXで流行っているMoveコントラクトの取引をしたい。
Moveコントラクトは基本的には、買いポジションはオプション取引でいうところのストラドルのロング、売りポジションはストラドルのショートと同じ損益曲線となる。
よって、Moveコントラクトの理論価格は「コールオプションの価格 + プットオプションの価格」となるはず。つまり、コールオプションとプットオプションの理論価格を求めることができれば、Moveコントラクトの現在価格が高いのか安いのかが判断できる。

との考えから、オプションの理論価格を計算したいと至った。

オプションの理論価格の計算方法

プットコールパリティ

プットオプションとコールオプションと原資産の間に成り立つ、以下の関係式のことをプットコールパリティと呼ぶ。

C=P+SKC=P+S-K

(原資産の満期日における価格をS、プットコールそれぞれのプレミアムをP, C, 行使価格をKとする。)

原資産の満期日における価格は、オプションと満期日が同じ先物の現在価格Fとも言えるので、それを用いて書き換えると

C=P+FKC=P+F-K

となる。

よって、プットまたはコールのどちらかの価格が分かっていれば、もう片方の価格を先物の価格と行使価格から計算できる。

これの何が嬉しいかというと、概ね正確といえる流動性の高い資産の価格を使って、流動性が低い資産の価値を算出できることである。
(インザマネーのオプションの流動性は低いため、正確な価格は分からず、同じ行使価格のアウトオブザマネーのオプションの価格からインザマネーのオプション価格を計算することができると嬉しい。)

これを使ってムーブコントラクトの理論価格を計算すると、

Move=C+P={2P+FK2CF+KMove = C + P = \begin{cases} {2P+F-K}\\ {2C-F+K} \end{cases}

となる。

BTCに流動性の高いオプション市場は存在するか?

Moveコントラクトの理論価格を先物とプットまたはコールオプションから計算できることが分かったが、BTCに十分に流動性が高いオプション市場が存在するのだろうか。デリビットのオプション市場を見てみると、ユーザは板を出せず、指定されたマーケットメイカーが板を出すような方式になっているようだ。満期が近いオプションのIVを見ても、明らかにヒストリカルボラに対して高い値が出ており、十分な流動性とは言いがたい。

https://www.deribit.com/main#/options?tab=all

スクリーンショット 2020-07-26 18.31.31

BTCオプションの市場価格とプットコールパリティを用いて、Moveの理論価格を計算するのは単純にはいかず、工夫が必要そうだ。

プットコールパリティが成り立つ理由

プットコールパリティが成り立つ理由について一応簡単に説明しておく。(分かりやすいようにリスクフリーレートはゼロとする。つまり、コストなしで資金を調達できる状況。)
満期日と行使価格が同じヨーロピアンプットオプション、コールオプションの買い手および売り手が、満期日までに受け取るキャッシュフローは、原資産の満期日における価格SとそれぞれのプレミアムP, C, 行使価格Kを用いて以下のように書ける。

プット買い:

{KSP(S<K)P(SK)\begin{cases} {K-S-P}&(S<K)\\ -P&(S\geq{K}) \end{cases}

コール買い:

{C(S<K)SKC(SK)\begin{cases} {-C}&(S<K)\\ {S-K-C}&(S\geq{K}) \end{cases}

プット売り:

{K+S+P(S<K)P(SK)\begin{cases} {-K+S+P}&(S<K)\\ P&(S\geq{K}) \end{cases}

コール売り:

{C(S<K)S+K+C(SK)\begin{cases} {C}&(S<K)\\ {-S+K+C}&(S\geq{K}) \end{cases}

権利行使価格Kと原資産の価格Sにかかわらず、以下の複製ポートフォリオのキャッシュフローは

  1. コール買い + プット売り:

PC+SKP-C+S-K

  1. プット買い + コール売り:

CP+KSC-P+K-S

となる。

ここで、1のコールを買ってプットを売るという行為について考えてみると、コールを買っているので、権利行使日に原資産を行使価格で買い取る権利を持っていることになる。と同時に、プットを売っているので、権利行使日に原資産を行使価格で売る義務がある。

仮に1のキャッシュフローが正だとすると、権利行使が発生しなかった場合には当然無リスクで利益が得られるし、権利行使が発生しても同じ価格で買って売ることができるので、やはり無リスクで利益が得られる。(ちなみに、1のキャッシュフローが負だとすると、2で無リスクで利益が得られることになる。)
無裁定理論では、このような無リスクで利益を得られる機会はないということになっているため、1および2のキャッシュフローはゼロということになり、プットコールパリティ

C=P+SKC=P+S-K

が成立する。

ブラックショールズ方程式

以降、このブログではブラックショールズ方程式のことをBS方程式と書く。
BS方程式によるオプションの理論価格計算については、次回記事に書く。