「予測より執行」が話題になっている

こんにちは、スナフキン(@snufkin0866)です。
トレーディングにおいて、予測より執行が重要という話が、話題になっているのをタイムラインで観測しています。この話題は、2年以上前から話されており、最近はリッチマン(@richmanbtc)氏のメディア露出に伴って、氏の機械学習botチュートリアルに取り組んだ方たちの間で、再び盛り上がっています。

結論、予測 << 執行であることに筆者も同意であり、これは少し考えてみると実は当たり前のことでもあります。本記事では、なぜ当たり前に予測 << 執行と言えるか、そして例外的に執行 < 予測となる場合のことを説明します。

Ros @Ros_1224
何が難しいって執行戦略 >> 予測力 はそうなんですが
それ以前に執行する対象がないんですよね
ようは約定がないんですwww 対象銘柄の選定方法を見直すべきか?
午後3:14 · 2020年9月28日·Twitter Web App
https://twitter.com/Ros_1224/status/1310462781661917184?s=20

Hoheto @i_love_profit
ボット自体の収益力において重要なのは、戦場選び & 執行戦略 >>> 予測力 だと思っているので、本来リソースをかけるべきなのはMLではなく様々な市場へのアプローチや多様な執行戦略のトライ&エラーでは?とか思ってしまうわけです。
午前8:25 · 2020年9月25日·Twitter Web App
https://twitter.com/i_love_profit/status/1309272693594681346?s=20

トレーディングを構成する要素

トレーディングを構成する要素として、次の3つの要素があるとしましょう。(本当は他にもあるかもしれませんが、議論をシンプルにするためにいったんこれだけとします。)

  • 市場選定
  • 将来の価格予測
  • 注文執行

市場選定

市場選定とは以下のような、環境選択を行うことを指します。

  • どのアセットクラスを取引するか
  • アセットクラスの中でどの商品・通貨を取引するか
  • 選んだ商品・通貨をどの取引所で取引するか

市場選定の重要性はあらためて説明する必要もないほどに明らかですので、この記事では深く触れません。

将来の価格予測

市場選定を済ませたら、後はその市場で自分がどう振る舞うかというのが、トレーダーにコントロールできる要素となります。トレーダーは、選んだ商品・通貨の将来の価格予測を元に、行動を決めます。
たとえば、将来BTC価格が上がると予測するなら、BTCを買うといったような行動です。

さて、将来の価格予測というのは、「上がるのか下がるのか」ということですが、もう少し分解すると、

  • いつ時点で
  • 今より何%
  • 上がっているのか、下がっているのか

という「予測期間」「値動きの幅」「値動きの方向」に分けられます。

Twitterなどでは、よくこのようなチャート上に将来の値動きを予測して線を引いた図がアップされていますが、このような図は、赤線上の各点でそれぞれ上記の「予測期間」「値動きの幅」「値動きの方向」を予測して、線で結んでいると言えます。

prediction_figure

予測には不確実性が含まれ、たとえば以下のような予測がありえます。

  • 予測期間:来年2023の1-6月に
  • 値動きの幅:BTC価格は今の5-10倍に
  • 値動きの方向:上がっているだろう

注文執行

注文執行とは、文字通り注文を出して約定するまでのことを言います。注文執行には色々な方法があり、例をあげると

  • 指値を出す
  • 成行注文を出す

というのも注文執行の方法になります。指値を出す場合には、指値をどこに出すのかというのが変数として含まれます。
このような指値・成行などの執行方法を工夫することのほうが、予測よりも重要であるという主張が、「予測よりも執行」ということです。

なぜ予測 << 執行か

結論としては、「期間中の値動きのばらつき >= 予測リターンの大きさとなるような時間軸でトレーディングしているから。」というのが答えだと筆者は考えています。

これはつまり以下の例のような話です。

①期間中の値動きのばらつきで利益が出る例

  • AさんはNintendoスイッチを定価30,000円のところを、12,000円で仕入れることができた
  • スイッチは量産が進み、メーカーが希望小売価格を20,000円に下げた
  • Aさんはスイッチを20,000円で売ることができたので、8,000円儲かった

②期間中の値動きのばらつきで利益が出る例

  • Bさんは埼玉県の市場価格4,600万円のアパート1棟を、元の所有者との交渉の末、3,000万円で購入した
  • 10年の経過後、購入したアパートは立地的に条件が悪く、土地価格が下がったため、市場価格として3,500万円となった
  • Bさんは持ち前の交渉力を活かし、市場価格3,500万円のアパートを4,200万円で売ることができた。結果として、キャピタルで税引前1,200万円の利益が出た

③期間中の値動きのばらつきで損が出る例

  • CさんはPlaystation5を、転売市場価格が50,000円のところ、メルカリで転売屋から80,000円で購入した
  • 1ヶ月後、Cさんが買ったPlayStation5の同モデルの転売市場価格は、Cさんが買った当初より上がっていて60,000円だった
  • しかし、仕入れ価格が80,000円と割高だったため、Cさんが手にした金額は60,000円で、購入時よりも金銭的には損をした

上記どのケースにおいても、同じ期間中の価格のばらつき(交渉による価格の変化や、妥当な市場価格という情報を知らないことによる高値づかみなど)の方が、期間中の市場価格の変化よりも大きいことにより、登場人物が利益を出したり損を出したりします。
言い換えると、登場人物たちが市場価格の予測をしていようと、していなかろうと、そしてその予測が当たっていようといまいと、彼らが損するか得するかは、購入・売却時に市場価格より割高・割安に執行ができているかによってのみ変わるということです。

トレーディングにおいても同様のことが言えるケースが多いため、筆者は予測は執行よりもトレーディングの結果への影響が小さいと考えます。
例を挙げると、特定の取引所で大口ユーザーが市場価格より大幅に乖離した価格で取引している場合、その取引の相手方になれるだけで、利益を出すことができます。このとき、市場価格の将来予測が当たっているか、外れているかは利益に関係ありません。

読んでいて気づいたかもしれませんが、これは要するにアービトラージです。一般に狭義の意味では、アービトラージというと、安い取引所で買って高い取引所で売るという送金や両建てを伴うものと思われがちですが、より広い意味で言うなら、同じ取引所内で明らかに安い価格だと判断したときに買って、高い価格だと判断したときに買うこともアービトラージと言えます。

予測と執行はそもそも全く別の話なのか

さて、予測と執行という二項対立のような書き方をここまでしましたが、実は予測と執行というのはそもそも別物として分けて考えるものでもないと考えています。
別の言い方をすると、執行を考えるというのは、リターンに加えてボラティリティ(ばらつき)を予測対象として考えて、指値や成行注文などの執行方法を最適化することだと言えます。

先程のスイッチを安く仕入れた人の例で言うと、価格のボラティリティを加味し、たとえ将来スイッチの価格が下がると予測していても、ボラティリティ込のリスク考慮済み価格で仕入れれば儲かるとの判断の元、そのような仕入れができるように業者と交渉しているということです。

まとめると、

  • 狭義の予測:リターンのみを予測すること
  • 広義の予測(執行を含む):リターンとボラティリティを予測すること

となります。

執行 < 予測となる場合とは

これには、以下の2通りがあります。

  • 予測それ自体を売っている場合
  • 執行が関係ないほど未来の予測・あるいは大きい変化を取りに行くため、ばらつきの大きさを無視できる場合

前者はいわゆる「アナリスト」的な人の話で、後者は「ビットコインマキシマリスト」的な人の話になります。

後者については、超長期のリターンを考えているので、短期的なばらつきを無視できます。マキシマリストに言わせれば、「100年後のBTC価格は10億は超えているのに、目の前のBTC価格10万円の誤差なんて気にしてどうするんだい?」というわけです。

ただし、たとえ100年後のリターンを見据えているマキシマリストであっても、今BTCを8億円で買ってくれと言われたら拒否するでしょう。これは、100年後に期待しているリターンに対して、8億円という現在価格からのばらつきのスケールが無視できない水準だからです。

金融商品のトレーディング以外で言うと、たとえばポケモンカードゲームを考えてみましょう。ポケモンカードゲームは、近年一種の市場が成り立っており、消費者側は将来的な値上がりを見込んでカードを買っている人もいます。

  • カードを購入する消費者:3-5年スパンでの値上がりを期待して買うので、短期間の値段のばらつきは気にしない
  • カードを販売する中古カード店側:中古カードの買取時の価格と売却時の価格の利ざや(安く仕入れて高く売れるという価格のばらつき)で稼ぐので、この利ざやがどれだけ取れるかが重要

このケースでもやはり、価格のばらつきで儲けている側の主体にとっては、執行 >> 予測となります。
そして、カードを購入する側にとっては、短期間でのカードショップでの割高感・割安感はそれほど気にならず、予測 > 執行となっています。

全体のまとめ

  • 期間中の値動きのばらつき >= 予測リターンの大きさとなるような時間軸でトレーディングしていると、予測 < 執行となる
  • ばらつきが気にならないほどの長い時間軸でトレーディングする場合、予測 > 執行となる

長々と書きましたが要するに、
「超割安に約定させられるなら、価格予測が当たろうと外れようと勝てるし、割安に約定させられることの方が価格予測を当てるよりも重要な場合がある」ということです。
それではお読みいただきありがとうございました。